眼鏡の歴史は古く、16世紀(室町時代)には日本へ伝来したようです。当時はレンズを手に持って使用しており、ルーペのような使い方をしていたと推察します。その後工夫・改良が加わり、鼻当てや耳にかける部分(テンプル)がついて現在の眼鏡の形になりました。眼鏡店ができ、一般に購入できるようになったのが19世紀のことですから、日常必需品となってから実に200年近くの歴史があります。

眼鏡処方は、法的には眼科医のみに認められた医療行為です。本人の自覚症状を尋ねながら、矯正視力・両眼視・眼位・調節力を調べ、眼鏡の用途に合わせて眼鏡度数を決定します。眼鏡は自力で矯正できない部分をカバーしてくれるケア用品であり、本人の一部としてfitすればとても有効で安全な道具です。

しかし、眼鏡が完成するまでには眼鏡度数の決定後、フレームとレンズの選択、そしてフィッティングが待っています。眼鏡作成は器械作業より手作業が多く、眼鏡を本人に合わせて作成するのに十分な知識や技術の習得が必要です。そのため、眼科で発行した眼鏡処方箋がどのように作成されたものか、以前は眼鏡店側は十分に理解していました。

しかし、機械や生産技術が向上するなかで、段々と大事な部分が省略されるようになってきています。「うちの眼鏡は日本人に多い骨格に合わせて型を作りました。」そう聞くと、なんだか安心感を受けませんか。しかしそれは実際には本人に合わせていませんよね。本人に合わせて作成するべき眼鏡が、いつの間にかすり替えられているような違和感を覚えます。最近、眼鏡チェーン店が台頭し、それぞれの会社が独自のデザインで中国や韓国で大量生産を行っているわけです。価格だけみるとリーズナブルになって良かったと思いますが、過矯正だったり鼻メガネだったり、大事な部分が欠落していないかと懸念することが増えてきました。

また、コンタクトの普及も追い打ちをかけています。ソフトコンタクトは柔らかく目に馴染むため装用中の不快感が少ないです。また、シリコン素材が導入され、角膜にもやさしくなってきました。遠近両用機能や、調光機能がついたものも登場しています。コンタクトの質が向上し、普及してきたことで眼鏡の需要は低下してきたため、眼鏡に質を求めるユーザーが減少しているのでしょう。お子さんの視力低下で眼科に相談にこられるご両親のなかには、最初からコンタクト合わせのみ希望され、眼鏡は必要ない、と明言される方もいます。驚くばかりですが、実際にはこれが現実なのでしょう。

しかし、眼鏡は長い歴史があり、小児から高齢者まで対応できる万能ツールです。そして何より安全です。そこで眼鏡の重要性を見直すため、眼鏡作成に必要な知識をここにまとめてみたいと思います。

  • 頂点間距離と矯正効果

    眼鏡レンズの後面から角膜頂点までの距離を頂点間距離と呼び、設計上12mmに設定されています。
    レフメーターという器械で目の度数を測定しますが、測定された数値は目の度数そのものではなく、その目から12mm離れた場所(眼鏡のレンズが位置する場所)からの数値です。
    眼科では目から12mm離れた位置で眼鏡合わせを行いますので、眼鏡店はフィッティングでレンズを目から12mmの距離に合わせる必要があります。

    レンズ度数が小さければ頂点間距離の誤差は無視できますが、5D(ジオプター)以上になると、近視用レンズでは目に近づけるほど強く、遠ざけるほど弱くなってしまいます。

  • 像の拡大・縮小効果

    像は遠視用レンズでは拡大され、近視用レンズでは縮小されます。
    乱視用レンズは軸と直角方向に拡大・縮小が起こるため、軸ズレは斜めに見える原因になります。

    具体的には、1Dにつき約1.2%拡大・縮小して見えることになります。

  • プリズム効果

    レンズの偏心(鼻メガネ等で、レンズの中心で見てない状態)によってプリズム効果が生じます。
    近視用レンズでは、メガネのレンズの中心間距離が瞳孔間距離より広い場合、基底内方のプリズム効果が発生するので、目を開散(寄り目の反対の意)させなければならず眼精疲労の原因になります。

    また、レンズの高さに左右差がある場合も上下方向の視差が生じて眼精疲労の原因となります。
    例えば、5Dのレンズで偏心量が4mmであれば偏角は2△となります。

  • レンズの傾斜と矯正効果

    レンズが前後に傾斜すると、球面屈折力や円柱屈折力が変化します。
    レンズの光軸と視軸を一致させるのが良く、例えば手元を見る時は目線が下を向くため、レンズの前傾角は遠用や遠近両用眼鏡で5~12°、近用眼鏡で15°がよいとされています。

    しかし小児の場合は視線の動きが多いため前傾角はもっと小さくします。

いかがでしょうか。こうしてみると、眼鏡には度数合わせ以外にも重要なポイントが多くあることがご理解いただけたのではないでしょうか。

大切なご家族の見え方を守るために、眼鏡に対して正しい知識を身につけて頂きたいと思います。そしてこれが眼鏡を見直すきっかけになれば幸いです。